トヨタは自動車を製造しているメーカーであり、基本的に販売はディーラーと呼ばれる全国あるいは世界の販売店がやってくれる。
だからクルマを製造している現場=工場が、しっかりと生産してくれるかどうかがトヨタの収益を左右することになり、必然的に工場という現場が正常に廻っている(異常がない)ことを常に管理することが成績につながる。
ざっくり言えば、つまり「現場管理は異常管理」と代弁できるということだ。
もっと言えば、管理が無いのが良い管理(正常は放っておけ)とも言える。
それがトヨタ式の管理であり、トヨタでは正常は放っておき、異常があった時だけその異常に対して迅速に対応すればよい。
ではどうすれば正常を放っておき、異常に対して迅速な対応ができるようになるのか?つまりどうすれば異常を管理することができるのか?
そのためには異常をこのように定義することから始める。
異常=基準・標準から外れたもの
当たり前だが、基準・標準がなければ、異常は判らない。
これが明確となってはじめて異常管理ができるようになる。
また言葉を変えれば、異常が目で見えなければ異常管理はできないことから、異常管理をすなわち”目で見る管理”とも呼んでいる。

異常管理とは図1のように、
まず異常を見えるようにする、すなわち異常を顕在化させるために、基準・標準を決める必要がある。
前述したとおり、 基準・標準が決まっていなければ、何が正常か異常かがわからない。
この基準・標準はいろいろなルールであったり、作業する内容そのものや、その作業にかけるべき時間といった”原単位 ” であったり、またそれらの作業へ取り組む順序としての”工程の流れ化 ” や、やり方である”標準作業”といったもののことである。
例えば「A君の作業は5分で終了」した。だけでは良いのか悪いのかわからない。
4分では早すぎる(手抜きな)のか、6分では遅すぎるのか? 5分がかけるべき正しい時間としても、さらに5分後の完成時の姿(品質)が定義されていることが重要だ。
また世間一般では異常な状態を定義していても、その後の異常の処置や再発防止の実施を考えられていないことが多い。
トヨタ式では異常管理とは、異常正常が判るだけでなく、異常時にはどうするか?なぜその異常が発生したのか?二度と起きないように、再発防止まで実施することまでがセットになっている。
この再発防止のために真因を ナゼ?ナゼ?ナゼ? ナゼ?ナゼ? と5回説くのが、トヨタの5回のナゼ?5Why?という。
トヨタでは異常があるたびに現地現物で5回のなぜにより解き明かし、二度と起きない工夫や、より良いやり方を追求するなど、現場は教育、勉強の場として人材育成を日々実施している。
つまり毎日現場では「このやり方でいいのか?」「この完成時間でいいのか?」など、常に現状に対して疑問を持って常に仕事に取り組んでいるということだ。
ただし、これをトヨタのようにやるとなると、それは一朝一夕ではままならない。多くの企業がトヨタ式の真似を試みてとん挫するのは、この目で見る管理 を実践するには、管理者は絶対に「ルール違反を見逃さない」という信念が必要になってくるからだ。
ルール違反を見逃した瞬間に新たなルールが生まれて、現場は崩れていく。
「こんなもんでいいだろう」「○○のせいだから仕方がない」「もう遅いから明日にしよう」なんてものが代表的なトヨタ式をまねできない企業姿勢だ。
さて前段では「異常管理は目で見る管理と言い替えることができる」と説明したが、目で見る管理を主語としてクローズアップすると「見える化」と呼ぶことができる。
ただし「見える化」から紐解いていくと、トヨタ式の見える化は必ずしも異常管理のことだけではないので注意が必要だ。
トヨタ式の見える化には「 問題を顕在化して、見えた瞬間に即解決行動を起こすこと 」という異常管理のほかに3つの 見える化 ・目で見る管理の種別がある。
・当たり前を可視化して、レベルを維持向上すること
・標準および時間を可視化して、品質・コスト・時間を安定させること
・人の能力を可視化して、人材育成(CSとES)につなげること
これら3つの目で見る管理に関しては、後日語りたい。
再三 にわたり「基準・標準」が決まっていなければ、何が正常か異常かがわからないが、本投稿タイトルの「トヨタ式経営管理の基本」を語る前に、指標について皆さんも健康診断でおなじみのBMIでおさらいしたい。

図2のように、BMIという指標は体重と身長の関係から、その人が痩せているのか、それとも肥満傾向にあるのか、どちらなのかを判断する指標の一つである。
このようにこの4人の平均BMIとしては24.5なので、一見普通体重なので問題ないかと思われる。
しかしトヨタ式では平均を見て正常異常といった管理はしない。
このBMIを売上げや生産量などに変えればおわかりかと思う。
たとえばこのBMIを、ある農家さんの4つの圃場の収量に置き換えてみよう。
基準がもし同じなら、正常だった圃場は一つだけで、一つの圃場の収量は痩せすぎ=凶作だったのであろう。
もっと問題なのは、取れすぎ=豊作だった圃場が二つもあることだ。
なぜ?その二つの圃場は豊作だったのか?
豊作だった原因が解明できれば、どの圃場でも応用したいところである。
天候が良かった、運がよかった、と喜んでいる場合ではない。
化学的に改善のメスを入れるべきだ。
農家の経営も同じである。
農業法人の会計年度が終わって、「あ~昨年は儲からなかったなぁ」あるいは「いやー、昨年はこんなに儲かったのか!」ではどうしようもない。
圃場の作物と同様に、経営を改善していくにはBMIのようなKPIを導入して、常に農家の経営状態を健康診断する必要がある。
その経営指標のことをKPI( Key Performance Indicator )と呼んでおり、日本語では 「重要業績評価指標」と言われている 。
経営にはさまざまな種類の業績評価指標が使われますが、KPIはその中でも「キー(重要な)」となる指標で、目標の達成に向かってプロセスが適切に実行されているかどうかを計測する役割があります。

図3でKPIの目的を説明しよう
それは第一に「ものさし」としての役割だ。
例えば農家が作る農作物の重要な指標、つまりKPIとして収量や反収といった農作物の取れ高があるとしよう。
その取れ高のものさしとして、日本の平均やその地域の平均といったものが農水省やJAなどから公に提供されているだろう。
また自身の農家の昨年の実績もわかっているであろう。
これらを基準・標準といったものさしとして本年と比較することにより、取れ高がよかったのか悪かったのかがはじめてわかる。
もちろんトヨタ式の考えにおいては、ただよかった悪かっただけでなく、その原因を5Why?で明らかにして、次の作付けに反映することが重要である。
続いて第二の目的としては「羅針盤」だ。
羅針盤とは主に船舶に取り付けられている重要な計器で、進むべき航路を確かめるための方位磁石のことである。
大海原には陸上のような目印が何一つない中、進むべき航路を誤らないためには、常に地磁気の影響で真北を示す羅針盤は何より重要だ。
企業経営においても同様に重要だ。
もしある企業で「売上目標1,200万円/年」という羅針盤を設定したとしよう。
この1,200万円というのは常に真北として示されている到達ゴール地点である。
その企業を1隻の船に見立てると、社長=船長だが、船長一人で船は航海できない。機関士や航海士、通信士、甲板員、 司厨部員 、医務員などいろんなセクションの一人々が、ゴールに向かって各々の仕事を完遂する必要がある。
これらは企業なら営業部や販売部、サービス部、総務人事部、コールセンターなど、船と同様にたくさんの仕事に分かれているが、やはり船同様にゴールに向かって各々の仕事を完遂する必要がある。
さてこの売上目標1,200万円/年が達成されないということは、目標の港に到達する前に燃料や食料が切れて、沈没したも同然である。
もしこの船である企業が、1月1日に0円で出港したら、12月31日には1,200万円で目的港に到達しなければならないということだ。
また6月30日にはちょうど半分まで航海は終わっているはずなので、折り返し点として600万円になっているはずだ。
もし中間の寄港地で600万円になっていないなら、燃料や食料などを追加するなどしなければゴールの港である1,200万円には届かなかもしれない。
これらのように「ものさし」なり「羅針盤」にしても、変化を数値でしっかり把握し、さらによくするための行(考)動につなげるツールがKPIである。
つまりトヨタの管理の基本は異常管理だが、その管理のために基準・標準を定めることが重要で、それがKPIとして設定されて、常に進捗としてみんなが見えていなければ何の意味もないし、ただそれだけでは達成しても意味がないということだ。
・目標(ゴール)がわからなければ、どっちへ、どのペースで、誰が、どのように、漕げばいいのかわからない
・漕いでいるときに、どこまでたどり着いたか、正しい方角か、常にわかっていなければ遭難してしまう、最悪ゴール前にガス欠で沈没する
だからトヨタの現場では、必ず現場ごとにKPIが見える化されていて、異常がわかるようになっている。
このように企業でも農家でも、何か目標、目的を達成するためには、トヨタ式の管理が必須なのは当たり前だが、本当に大切なことは「当たり前に異常管理をするためのKPIを設定して日々管理することと、そのKPIを会社の方針として全従業員に示すこと」が大変重要である。
つまり船長である社長が「年末までにはニューヨークに行く」が目標であり、途中の寄港地にハワイを年央までに、のように決めればKPIとして異常管理ができる。
しかしなぜニューヨークなのか?パリやロンドンではいけないのか?というところが方針である。
またその方針には、ニューヨークまでの船にヨットを使う、エンジン付きのボートを使う、大型船を使う、潜水艦を使う、はたまた飛行機を使うなど、どうやって達成すべきかなども提示する必要がある。
つまり掲げた目標を「どのように達成するのか」といった”道筋 ” を示すものが”方針 ” である。
極論方針が示されていなければ、大量の燃料や食料をつぎ込んだ豪華船でゴールにたどり着くのはたやすいかもしれない。
わかりやすく農作物の例で現せば、お米100トンが収量目標であったときに、たくさんの肥料や農薬、また手間をかければ100トンはたやすく取れるかもしれないが、だれがそんな農薬漬けで高コスト=高価格のお米を買ってくれるだろうか?
つまり100トンのお米を作る目標を掲げるのは当たり前だが、その作り方として慣行栽培や無農薬栽培など、それら方針も示さないと、たとえ目標が達成しても意味がないということだ。
トヨタでは異常管理とともに、仕事の進め方としてその上位にこの方針管理が徹底されている。
わたしのコンサルティングでは、この方針管理の導入は必須となります。
なぜならこの方針が定まっていなければ、トヨタ式の改善はできないからです。
改善をするということは、理想と現状との差、ギャップを埋めるのが改善です。
ここでいう理想のことが、すなわち最終目標とその方針になります。
「20年後に100トン3億円、従業員10人→100人」が理想として掲げる最終目標であれば、それをどのように、どんなスピードで実現させていくのかが方針です。
目標を掲げて方針を示し、進捗管理などをしなければ、乗組員である従業員の本領を発揮することはできません。
つまり方針管理が会社の未来を決めるといっても過言ではないのです。